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前橋地方裁判所 平成7年(ワ)268号 判決 1996年12月03日

原告

新井芳廣

石川真男

大沢茂

小林晃

小林悟

大和洋一

右原告ら六名訴訟代理人弁護士

大谷豊

原告

伏島征一郎

右原告ら七名訴訟代理人弁護士

樋口和彦

被告

群馬司法書士会

右代表者会長

宮前有光

右訴訟代理人弁護士

戸所仁冶

主文

原告らの被告に対する平成七年二月二五日被告臨時総会決議に基づく登記申請事件一件当たり金五〇円の支払義務がないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、司法書士会である被告がした、阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の復興支援拠出金を送金するために、被告の会員から登記申請事件一件当たり五〇円の復興支援特別負担金(復興支援証紙)徴収を行うとの決議について、同決議は内容的にも手続的にも違法であり無効であるから、会員にはその支払義務がないとして、被告の会員である原告らが、右債務の不存在の確認を求めた事案である。

一  争点

1  本件決議が、内容的に違法であり無効となるか。

2  本件決議が、手続的に違法であり無効となるか。

二  争いのない事実等(1、2の事実については、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 被告は、司法書士法(以下「法」という。)一四条に基づいて設立された法人である。

(二) 原告らは、いずれも被告の会員たる司法書士である。

2  決議の存在

被告は、平成七年二月二五日に開催された臨時総会において、左記のとおりの決議(以下「本件決議」という。)をした。

(一) 阪神大震災により被災した司法書士会・司法書士の復興を支援するため、阪神大震災救援司法書士対策本部に「復興支援拠出金」三〇〇〇万円を拠出する。

(二) 右拠出金のため「復興支援特別会計」を設置する。共済特別会計から復興支援特別会計への貸出を行い、この貸付金をもって拠出金を支出する。

(三) 復興支援特別会計は共済特別会計からの借入金のほかに次の各号をもって収入とし、期間三年で共済特別会計への償還を行う。

(1) 一般会計からの繰入金。ただし、役員手当の減額、事業の縮小を含めた見直し、旅費日当規定の見直し等により生じる余剰金を繰り入れる。

(2) 甲号一件につき五〇円の復興支援特別負担金(復興支援証紙)徴収による収入。

なお、右各号とも共済特別会計への償還が完了するまでの措置とし、償還完了後は旧に復するものとする。

3  被告は、平成七年三月六日、兵庫県司法書士会に三〇〇〇万円の拠出金を送金した(証人井上松男)。

三  原告の主張

1  目的外行為

被告は、会員司法書士の品位を保持すること及びその業務の改善を図るという理念を達成するために、「会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。」(法一四条二項、群馬司法書士会会則(以下「会則」という。)二条)法人である。

会員以外の第三者が被災者となったときにこれに見舞金等を贈与することは、「会員の指導及び連絡」に該当せず、被告の目的事項に含まれない。

したがって、本件三〇〇〇万円拠出は被告の目的外の行為であるから、本件拠出決議は、権利能力ないし行為能力の範囲外の行為を内容とするものであって、無効である。

なお、営利法人たる会社においては、その目的の範囲につき、客観的・抽象的に判断して目的遂行に間接的に必要な行為も含まれると広く解釈する立場もあり得ようが、被告のような強制加入の公益法人の場合は、加入を強制される会員の人権及び法人の公益性という観点から、その目的の範囲も当然に限定を受けるというべきである。

2  義務なき行為の強制

一般に、法人の構成員の権利・義務の範囲は、当該法人の権利能力ないし行為能力のそれとは必ずしも一致せず、別途、当該法人の目的、性質、これを律する法律等によって定められなければならないことは、株式会社と株主の関係を見ても明らかである。そして、ここでも当該法人の目的の範囲がその重要な基準になり得ようが、ここでの「目的の範囲」は、取引の安全への配慮は不要で、純粋に内部の問題としてこれを定めればよい。そして、当該法人が強制加入団体であれば、その構成員の人権保護の要請は、任意加入団体に比較してより一層強度のものとなる。

ところで、本訴は、三〇〇〇万円の拠出行為の無効を前提に兵庫県司法書士会にその返還を請求するものではなく、本件決議の無効確認を求めるものなのであるから、まさに法人の構成員の権利・義務の範囲が問題となる場合なのである。

そして、前記のとおり、被告がその構成員である司法書士になし得る業務は「会員の指導及び連絡に関する事務」であること、また、構成員が被告に負う財産上の義務は入会金及び会費の負担に限られることは、法律に明示するところである(法一五条七号、九号)。これ以上に、被告が会員各人に対して第三者たる司法書士会ないし司法書士への義捐金についての負担を義務付けるがごときは、右目的の範囲を超え、また強制加入の公益法人としてなし得る範囲を越えているといわざるを得ない。

したがって、本件決議は、公序良俗に反し無効である。

3  財産権の侵害

国民の権利を制限し又は義務を課する行為については法律の定めを必要とするとの憲法上の人権保障システムからすれば、法律による強制加入団体における構成員の権利制限等は、当該団体の性質上当然に認められるものを除いては、それを根拠付ける法律の定めを必要とするというべきである。

ところで、本件決議に基づき会員に課される義務は司法書士会という団体の性質から当然に導かれるものでないことは前記のとおり明らかである。また、法は司法書士の財産上の義務として入会金ないし入会負担金と会費の負担を定めるのみである(法一五条七号、九号、なお、財産上の権利制限として同六号)。

そして、本件決議に基づく特別負担金は、右入会金にも会費にも該当しない。なお、会費とは会の運営・維持の費用として会員が分担する金銭をいうところ、会員外の第三者の復興支援が会の運営・維持に該当しないことは明らかである。

したがって、本件決議は、法律に基づかずに原告らの財産権を侵害するものであり、公序良俗に反し無効である。

4  思想・信条の侵害

本件決議に示される内容は、本来的には、「やりたいものがやる」筋合のものであり、強制になじまないものである。それにもかかわらず、多数決決議で支援を強制することは多数による小数者の迫害といわなければならない。加入が任意の団体であれば、決議に従いたくない者は脱退すればすむが、被告は加入強制団体であり、そこからの脱退は司法書士業務の禁止を意味する。このような重大な不利益まで容認して会員の基本的自由権を制限しなければならない理由はないというべきである。

本件決議に賛成しない理由には種々のものがあろうが、本件決議によって実質上寄附を強制することは、強制される者の思想・信条を害するものである。

したがって、本件判決は、原告らの思想・信条の自由を侵害するものであり、公序良俗に反し無効である。

5  臨時総会招集手続の瑕疵

会則三五条二項及び三項によれば、被告が総会を開催するときは、会日から二週間前に会議の目的を示して会員に対し招集通知を発しなければならないとされているが、その趣旨は、商法二三二条同様、会員に総会への出席の機会を保障し、総会において議決権を行使する準備をすることができるようにすることである。したがって、招集通知には重要な議題については議案の要領も記載することを要するというべきである。

ところで、臨時総会の議案第一号は復興支援拠出金に関する事項、議案第二号は共済規則一部改正、議案第三号は特別負担金規則一部改正であり、これらが一体となって支援拠出金支出が可能となるものであった。したがって、各議案の要領が記載された招集通知が会日から二週間前に発せられるべきところ、実際に発せられた招集通知書(それは従来の慣行に反しファックス通信によるものであった。)には議案第二号及び同第三号の議案の要領が記載されていなかった。このため、会員としては群馬司法書士会の特別負担金規則第二条(特別負担金納入義務)の適用の有無等を知る術もなく、自己の権利義務及び会経営の在り方という重要事項につき、総会において議決権を行使する準備をすることを保障されなかった。

また、議案の要領が示された議案第一号にあっても、議案の趣旨第二項で、「復興支援特別会計」の財源を共済特別会計からの借入金としながら、同第三項で、「復興支援特別会計は共済特別会計からの借入金のほかに」登記申請事件一件につき五〇円の「復興特別負担金(復興支援証紙)」を以て収入とするとあり、拠出金も財源に矛盾があり、また、提案の趣旨第一項でいう三〇〇〇万円の拠出金のほかに会員からの復興特別負担金による収入分が追加で復興支援として拠出されるかの疑いを残すものになっており、会員としては適正な決議参加準備をなし得ない内容のものであった。

以上のとおり、右臨時総会の招集通知には重大な瑕疵があり、したがって、本件決議は無効である。

6  決議内容の不明確性

本件決議には前項で指摘したような矛盾、混乱があるほか、さらに、復興支援拠出金三〇〇〇万円を捻出するために復興支援特別会計を設置するというのであるから、右特別会計から拠出金が支出されるべきところ、提案の趣旨第二項は共済特別会計からの「貸付金をもって拠出金を支出する。」というものであり、財源と会計処理の混同が生じている。

また、本件決議は、提案の趣旨第三項で「期間三年で共済特別会計への償還を行う。」としながら、なお書きで、「上記各号とも共済特別会計への償還が完了するまでの措置」であるとするが、三年経過時に右償還が完了していないときいかなる事態になるのか不明である。

このように、本件決議には重大な点で少なからぬ矛盾ないし不明な点があるから、これをもって会員を拘束して財産上の負担を課すことは許されないというべきである。

7  決議手続の瑕疵

本件決議に先立ち、本件決議案に関して継続審議を求める緊急動議が提出されたが、この動議は反対多数で否決された。しかしこの否決決議に参加した二五三の議決権数中一三〇は委任状によるものである。

ところで、委任状による委任の趣旨は事前に通知された総会決議事項及びこれに密接に関連する事項(たとえば決議案の修正案)に限定されるべきであり、継続審議にすることの可否まで委任したものとはいえない。実質的にも、決議案に賛成した者の中にも緊急動議に賛成した者が現実に存在するのであるから、決議案についての委任内容は継続審議についての可否と直結せず、したがって、決議案についての委任は継続審議についての委任を意味しない。

そうとすれば、本件決議の前提となる緊急動議が未だ議決されておらず、したがって、本件決議も無効である。

四  被告の反論

1  目的外の行為について

被告の目的は、法一四条、会則二条に定められているが、法人の権利能力、行為能力は、法律や定款に定めた目的だけに限定されるのではなく、この目的を遂行するのに相当な全ての事項に及ぶと解されている。そして、公益法人であっても、法人の運営費を捻出するための収益事業を含むことすら認められている。原告らが主張するように、被告の行為能力を「会員の指導及び連絡」に限定すれば、共済事業や親睦活動まで禁止されてしまうことになる。

被告は、司法書士の強制加入団体であるが、強制加入団体であるということは、同時に、会員による司法書士業務の独占を意味している。そのため、司法書士会及び司法書士は、国民の司法書士業務に対する要請に完全に答えるべき責務を負っているというべきである。司法書士は、日常的に、不動産の権利変動に要する重要な書類や供託のために現金を預かることを業務とするのであるから、国民から、司法書士は絶対に不正を行わないという信頼を獲得していなければならない。そのために、司法書士は、常に生活基盤を確立し、品位を保持しなければならない。

司法書士の業務独占の維持や国民の信頼の獲得という目的は、各県単位の司法書士会の問題ではなく、全ての司法書士会及び司法書士全体の問題であり、全ての司法書士会及び司法書士は、この目的達成のため、相互に協力し合うべきであり、被告は、この目的達成のための行為については、当然行為能力を有するというべきである。

阪神大震災による被害は、兵庫県司法書士会においても、死亡した会員二名、事務所が全半壊した会員一〇〇名以上、被災した会員約三五〇名という惨憺たる状況であった。そして、兵庫県司法書士会は、会員数七〇〇余名の規模でありながら、平成七年二月一八日開催された臨時総会で、被災会員に対する給付金七〇〇〇万円を支出すること、被災会員に対する転貸資金の借入れ限度額を一〇億円とすることを決定した。そこで、被告の阪神大震災支援対策本部は、特派員二名を現地に派遣し、その報告を受けた上、司法書士制度を維持するため、被告も兵庫県司法書士会及びその会員に対し、できる限りの支援をすべきであるとの認識に至り、平成七年二月四日の対策会議で、兵庫県司法書士会に金三〇〇〇万円を送ることを決定し、同年二月八日の理事会、同月一三日の支部長会議でその承認を受けた。そして、同年二月二五日に開催された臨時総会において、賛成多数により本件議決がなされたのである。

衣食足りて礼節を知るという諺の如く、生活基盤の安定なくして品位の保持は困難であり、阪神大震災の被害を受けた兵庫県司法書士会の会員を支援するための拠出金の支出は、被告の目的に沿う行為であり、何ら目的外行為に当たらない。

2  義務なき行為の強制について

兵庫県司法書士会に対する拠出金の支出が、被告の目的に沿うものであることは前項記載のとおりであるから、本件決議は義務なき行為の強制に当たるものではない。

3  財産権の侵害について

法一五条七号、九号は、入脱会に関する事項、会費に関する事項は会則で定めなければならないという規定であり、それ以外の金銭負担がないことを保証するものではない。例えば、会館建設負担金等、必要に応じて負担金を徴収することが禁止される所以はない。そして、本件拠出金の支出が被告の目的に沿うものである以上、その負担を会員に求め得るのは当然のことであり、財産権の侵害に当たらない。

4  思想・良心の自由の侵害について

原告らは、被告が強制加入団体であるから、本件決議の内容は強制に馴染まないと主張するが、前述のとおり、強制加入団体であり、司法書士業務を独占しているからこそ、司法書士会及び司法書士全体で司法書士制度の維持に当たるべきものであり、また、被告は、多数人からなる団体であるから、最終的には多数決により、一部の会員の意思に反する決定をすることがあるのは当然である。

また、本件の拠出金は、共済特別会計からの借入れで賄い、その後三年の間に会員から徴収する復興支援特別負担金で償還するというものであり、その負担金の額は、年間八〇〇万円(一般会計からの繰入金が金二〇〇万円)と予定されている。金八〇〇万円を会員数二八〇で除すると、一人当たり年間二万八五七一円(一か月約金二三八〇円)の負担であり、決して大きな負担とはいえないし、負担応力のない者には免除も可能である。

本件決議は、被告の会員に金銭の出捐を求めるものであり、会員の国や自治体に震災対策を求めることが緊急かつ実際的であり、自助努力が自由主義体制の原則であるという考え方を否定するものではなく、思想・良心の自由とは無関係である。

5  招集手続の瑕疵について

臨時総会の開催通知は、平成七年二月一〇日に発送され、招集通知には、会議の目的、場所及び会議の目的である事項が記載されている。なお、株式会社等においては、特定の重要な議題について、株式会社の招集通知に議案の要領の記載が求められているが(商法二四五条二項等)、法、会則及び規則にはそのような規定は存在しない。

総会の招集に当たり議案書を送付することは、法、会則及び規則上要請されていないが、被告は、議案第一号を平成七年二月一〇日本件臨時総会招集通知と共に、議案第二号、第三号を同月一三日の出欠席の回答書及び委任状用紙と共に全会員宛送付している。右のとおり各議案が送付されたことによって、各議案内容は各会員に周知され、各会員は総会以前に議案内容につき熟慮する機会を得ている。

また、第一号議案書の提案の主旨第三項の「共済特別会計からの借入金の他に次の各号をもって収入とし」という表現は適切とはいえないが、その第二項には、「共済特別会計から復興支援特別会計への貸出しを行い、この貸付金をもって拠出金を支出する。」、第三項では、「復興支援特別会計は……次の各号(一般会計から繰入金と甲号一件につき五〇円の復興特別負担金)をもって収入とし、期間三年で共済特別会計への償還を行う。」と記載されており、原告が主張するような矛盾ないし不適切な表現は存在しない。

6  決議内容の不明確性について

拠出金は、復興支援特別会計の共済特別会計からの借入金によって、復興支援特別会計から支出されるものであることは明らかである。

復興支援特別会計は、共済特別会計への借入金の全額償還によって目的を終了するから、その償還が終れば三年経過する前であっても復興支援特別負担金も終了する。また、三年を経過すれば、特別負担金規則三条二項、八条但し書きが廃止されるから、復興支援特別負担金の徴収も終了する。そして、三年経過しても共済特別会計への償還が終了しないときは、改めてその時点で弁済財源を協議することになるだけである。

7  決議手続の瑕疵について

継続審議を求める緊急動議は、審議の方法についての動議であり、それ自体が独自の内容を有する議案ではない。このような動議の進め方に関する事項については、当然欠席者が提出した委任状の範囲内に含まれるというべきである。

また、一般に、緊急動議は予め予定されていないからこそ緊急動議であるが、原告らの主張によれば、緊急動議が出された場合には、動議内容を示して再度委任状の徴求をしなければならないことになり、極めて不合理である。総会において緊急動議が提出される可能性は常に存在するのであるから、欠席者の委任内容には、動議が提出された場合の議案としての採否、議案として採用された場合の採否を当然に含むものというべきである。

第三  争点に対する判断

一  民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄附行為で定められた目的の範囲内において権利を有し義務を負う(民法四三条)。この理は、すべての法人に通ずる基本原則であり、司法書士会についても基本的には妥当するが、その目的の範囲の解釈に当たっては、司法書士会の団体として特質を十分考慮する必要がある。

すなわち、司法書士は、その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域毎に一つの司法書士会を設立すべきことが義務付けられ(法一四条一項)、司法書士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の司法書士会は、日本司法書士会連合会を設立しなければならず、日本司法書士会連合会は法人とされ、各司法書士会は、当然に日本司法書士会連合会の会員となる(法一七条一項、一七条の四、一四条三項)。司法書士会の目的は、会則の定めを待たず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法一四条二項において、司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするとされ(法一五条では司法書士会の目的は会則の必要性記載事項ともされていない。)、日本司法書士連合会は、司法書士の業務又は制度について、法務大臣に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。

また、司法書士会は、会則を定め、又はこれを変更するには、法務大臣の認可を受けなければならず(法一五条の二第一項)、所属の司法書士が法又は法に基づく命令に違反すると思料するときは、その旨を、その司法書士会の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長に報告しなければならないとされている(法一六条)。

さらに、司法書士会は、司法書士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、他の法律に別段の定めがある場合を除く外、司法書士会に入会している司法書士でない者(協会を除く)は、司法書士業務を行ってはならないとされている(法一九条一項)。

二  以上のとおり、司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするとして、法が、あらかじめ、司法書士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その会則の定立等には法務大臣の許可が必要とされる等、法務大臣の監督に服する団体である。また、司法書士会は、強制加入団体であって、その会員には実質的には脱退の自由が保障されていない。

ところで、法人の目的に関する基本原則は、会社などについても基本的に妥当し、一般に、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され、会社が寄附行為をすることも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされている。

しかしながら、前記のとおり、司法書士会は、会社とはその法的性格を明らかに異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のような広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。

三  そしてさらに、司法書士会が前記のとおり、強制加入団体であり、その会員に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、特に会員の思想・信条の自由を害することのないように十分配慮する必要がある。

司法書士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って司法書士会の経済的基礎を成す会費等を納入する義務を負う。しかし、法が司法書士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々な思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、司法書士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協議義務にもおのずから限界がある。

そして、それが、本件のように阪神大震災により被災した司法書士会・司法書士の復興を支援するために金員を拠出するというものであっても、本来、そのような者を支援するために金員を送るか否か、仮に送るとしても司法書士会を通じて送るか否か、また、どのような方法でいかなる金額を送るか等については、各人が自己の良心に基づいて自主的に決定すべき事柄であり、他から強制される性質のものではない。

四 そうすると、前記のような公的性格を有する司法書士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり、司法書士会がそのような活動をすることは法の予定していないところである。司法書士会が阪神大震災により被災した兵庫県司法書士会に金員を送金することは、たといそれが倫理的、人道的見地から実施されるものであっても、法一四条二項所定の司法書士会の目的の範囲外の行為であるといわざるを得ない。

なお、被告は、生活の基盤の安定なくして司法書士の品位の保持は困難であるから、阪神大震災の被害を受けた兵庫県司法書士会に拠出金を送ることが必要であると主張するが、拠出金の支出と司法書士の品位の保持は必ずしも直結するものではないから、被告の右の主張は採用することができない。

したがって、本件決議は、被告の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効と解するほかはない。

五  そうすると、総会手続の違法等、その余の争点について、判断するまでもなく、原告らは、被告に対し、平成七年二月二五日被告臨時総会決議に基づく登記申請事件一件当たり金五〇円の支払義務を負っていないというべきである。

第四  結論

以上のとおり、原告らの請求は理由があるから、これを認容することとし、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山口忍 裁判官高田健一 裁判官藤原俊二)

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